MEMORY

unforgettable 04 SACHI AMMA

shot by Shota Matsumoto

shot by Shota Matsumoto

 

2014年。その当時ブランドマネージャーとして勤務していたアディダスジャパンで初めて安間さんと出逢った。アスリートと会う前は不要なリサーチはしないようにしていて、この日もそうだった(実際に会って話した時の感覚が記憶として深く鮮明に残るように)。事前に知っていたことと言えば2013年クライミング世界チャンピオンという強い事実だけだった。取材の部屋に入ってきた彼はとにかく細くてしなやかな印象だった。こちらの質問に対する彼の回答に使われる日本語は時間をかけながらも熟考されていた。感覚的で詩的。理解することに時間がかかった。そしてなんと言っても恍惚とする知性を感じた。「クライマーとして自分がやるべきことは、やはり僕自身の視点で道を切り開くということです。」と「想像力が自分を成長させてくれる。」という2つのパンチラインで一挙に吸い込まれた。

 
shot by Satomi Yamauchi

shot by Satomi Yamauchi

 

2014年クライミングワールドカップ印西が開催された。結果は最後から2手ほど前のホールドを握れず、2位という結果だった。ロープに繋がれ、チャレンジしたばかりの壁を仰ぎながらゆっくり降下してきた。地面に着地して、腰に巻いたロープをほどき、少し歩き出すと10歳ぐらいの少年が小走りで安間さんに近づいた。

少年:「サチさん!サインお願いします!

安間:「もちろん。

少年:「サチさん、なんであの右奥のホールドを掴みに行かなかったのですか?」サインをし終えて、少年と目の高さを合わせるために膝をついた。

安間:「ほら見て。ここからは奥のホールドが見えるでしょう。だけど、あの上の課題の真下からだと見えないんだな。」優しさと厳しさが見えた。

その瞬間「本物さ」が目に映り込んできて追いかけたいと思えた。さしずめ「観客席からでは見えない景色がある。」ということがメッセージだったのだと思う。

 
shot by Satomi Yamauchi

shot by Satomi Yamauchi

 

この頃から人工壁のコンペティションから離れていった。誰かと競い合って、どちらが勝った負けたの話をするような気分ではなくなったのだろう。外岩に入った頃くらいから不定期に連絡を取り合っている。彼は世界を自由に旅しながら、自然の壁に素直な気持ちで立ち向かい、自分自身を日々高めている。その姿や生き方に強い尊敬の念を抱く。

 
shot by Shota Matsumoto

shot by Shota Matsumoto

 

2020年11月.なんとなくのタイミングを感じて、佐千くんのウェブサイト (fromtheathlete.com) を一緒に作ることになった。数年前に交わした言葉を思い出しながら、今も彼のコメントで今も理解していないものがあることも思い出した。「フィジカルがメンタルを凌駕してゆく瞬間がある。」「岩のように硬いものに登る自分という存在は、柔らかい存在でなければならない。」一体何を言っているのだろうか。

 
shot by Satomi Yamauchi

shot by Satomi Yamauchi

 

僕のいるこの場所からは見えない景色があるのだと自分に言い聞かせ、できるだけ考えないようにしながら、今後一緒に紡いでいくウェブサイトのことに胸を高鳴らせている。彼が過去に僕に伝えた言葉たちを思い出しながらようやく気がついた。ずっと今まで、クライミングの話をしていたのではなかったということを。もうすでに自由な心で遠くまで行けるようないいイメージで熱が騒ぐ。出逢いって本当に不思議で嬉しくなるよ。

 
 
Kohei Adachi